おにじと申します。
今回はライトノベル感想。
ざっくり行かせて今回は…って感じで、新しいライトノベルを買ったぞ。
と、言っても相変わらず三河ごーすと先生作品ですが。
新しく出たらしいのでね。
今回はファンタジア文庫から『顔さえよければいい教室 1.詩歌クレッシェンド』の感想です。
作品紹介
『顔さえよければいい教室』は三河ごーすと、初のファンタジア文庫からの出版となる新作である。
…というか、ファンタジア文庫のこと、未だに『富士見ファンタジア文庫』って呼ぶんだけど(実際正式名称は現在も富士見ファンタジア文庫らしい)
もう角川だからほぼ富士見要素ないんだよね(筆者が持ってるデート・ア・ライブ、後ろにまだ富士見書房って書いてたりする)
主な代表作としては今年最終巻が出た『自称Fランクのお兄さまがゲームで評価される学園の頂点に君臨するそうですよ?』(MF文庫J)、
YouTube等の動画でのマーケティングも好調である『義妹生活』(MF文庫J)、
アニメ化が発表されており、自身初のアニメ化作品となる『友達の妹が俺にだけウザい』(電撃文庫)等。(アニメ化の続報マジでいつだよ。コロナにしても何もなさすぎだろ)
また、美少女ゲーム『神様のような君へ』(CUBE / 2020)でも執筆経験があったりと、多彩な活動をしているとも言える訳だが。
(まぁ筆者は『神様のような君へ』やって、『いもウザ』買おっかなあ~って言ってたら三河ごーすと先生当人に推されてそこからずっと読んでいるってのもあって、今回の新作もとりあえず手は出してみようって感じで手を出しております)
イラストは多数のソシャゲ(マギレコ)やら、VTuberやら、多方面での活躍をしているnecömiが担当。
今作は、そのタイトルからしてなんかもうインパクトがある感じだが…w
公式サイト記載のあらすじを確認しておこう。
音楽、ダンス、ファッション――あらゆる分野の天才が集う芸能学校・私立繚蘭高校。
だがその実態は、「顔」をはじめとした外見ですべての評価が左右される教室だった。
俺の妹・池袋詩歌はヒキコモリで、兄ナシでは生活できない要介護人間のせいか、配信のセンスもスター性も壊滅的。
この学校では最弱かと思われた。
だが俺は知っている。ネットで顔を隠して伝説になったVSINGER。その正体こそが詩歌だと。
「――青、この曲の色。私はそれに合わせて歌うだけ」
ゆえに詩歌の歌声は唯一無二。学校のあらゆる常識を覆し、彼女の才能は見出されていく――!
顔で評価されるって何においてもクソ!といういつも声優云々に言っていることはとりあえず置いておくとして、今作はこの初手からの気合の入り方が凄い。
ヒロインであり妹である池袋詩歌の楽曲がもう作られている、という気合の入りっぷり。
サウンドプロデュースはQ-MHz(畑亜貴、田代智一、黒須克彦 、田淵智也(UNISON SQUARE GARDEN))だわ、ボーカルは楠木ともりに頼んでいるわという気合の入りっぷりである。
初手から推していくという気合が凄い今作。
『義妹生活』は義妹。『いもウザ』は友達の妹。今回の『顔さえよければいい教室』は妹(引きこもり天才)って感じで…いい?(
どんな感じなのか見ていこう。
雑感
ラノベらしさとラノベらしくなさ
いもウザとかとおんなじようなこと言って大変申し訳無いんだけど。
まずこの作品、読み物として面白い。いい意味でラノベ臭さがないのが良い。
と、言いつつちゃんとラノベはしている。
それこそ『引きこもり妹』とかは、ラノベの定石みたいな設定とも言えると思うし。
天才がどうこう、というのとか、芸能界を目指す人間が集まる学園~みたいなのも、ラノベとかではありそうな設定だし。
あらすじの段階で分かっている通り、今作の基本路線は成り上がり、上を目指していく方向性なので、こういう所もラノベっぽいと思う。
ただ、それ以外の所が、単純に読み物として面白い。
それぞれのキャラクターが非常に人間臭いし、どういうキャラクター性があって、どういうストーリーが存在するのか、みたいな所が結構はっきりしているし、逆に言及されていない部分に関しては、今後どこかしらで開示されそうな雰囲気があった。
まぁ、だからラノベをもうほぼ読んでいない筆者にも読めるんだろうけど。
掛け合いの面白さ
相変わらずという言い方でもいいかもしれないが、掛け合いの所のギャグチックな所が非常に面白い。ギャグじゃなくても、キャラの掛け合いの所が楽しいというかなんというか。
片方がずーっとボケてて、片方がツッコミ続けて、ボケ側が戻ってくる下りとか。
冒頭の所とかもそうだけども。
「いや、もうすこし悩まない? 人生の大事な転機だよ?」
「悩む必要なんてあるもんですか。”シーカー”をメジャーデビューさせてくれるんですよね?」
「ゆくゆくはそのつもりだけど……」
「CD販売、サブスク、カラオケ印税、ライブ、テレビ出演、CM出演、何でもやります。靴も舐めますし、枕営業――は妹にはさせられませんが、俺でよければいくらでも!」
「ちょ、ちょ、ちょ、待ってよ。人聞き悪いってばぁ、それ」
(中略)
「残念ながら、君は大きな勘違いをしている」
「やはり枕は本人じゃないと駄目ですか。もしそうだとしたらこの話はなかったことに」
「違うから。その話から離れてくれる?」
「はい」
p31
こういう掛け合いのテンポとかが相変わらず良いなって思う。
読んでて楽しいし。こういうギャグ的な感じは秋葉との会話でも多いわけだが、楽しいよねなんかこう。
そういう所じゃなくとも、会話の描き方が自然というか、テンポが良いというか。
読んでいて良い感じなので、読み進めやすい、結局今回も一日かからずにサクッと読み終えてしまったし。
詩歌がどういう人間か?という描き方
今作においての主人公は詩歌だ、という話が冒頭に登場するわけだが。
この引きこもり妹、VSingerとして一定(中堅くらいかなあ)の数字を出していて、兄である楽斗は天才と評するわけだけど。
実際詩歌は天才的な所があり、音を色で見れる、という表現が多く存在する。
少しでも音の波があれば見える…と。こういう所の情報の出し方というのも、自然というか、ちょっとずつ出てくるので、整理しやすい所もある。
例えば、
詩歌が、首をかしげた。
何か引っかかりがあるようで、しきりに首をひねっている。
「んんぅ……?」
「気になることでもあるのか」
「んー、微妙に?でも、イヤホンだと、よく視えない」
「ああ、なるほど」
詩歌の共感覚は音の中に『色』を視る。
最も『色』を感じやすいのは、生音を目の前で認識すること。何かを隔てるごとに、『色』はぼやけて視えにくくなるらしい。
p81-82
とかの記載は、所謂詩歌の視え方の設定の開示みたいな所もあるのだが、話の中への混ぜ方が上手いし、わかりやすい場面でそういうのが出てくる。
こういう色を視るという部分で、色々と過去に何かがあったことは提示されている訳だけど、この辺りは勿論もうちょっと進まないとわからないと思う。
ただ、この作品内においては、結構この見方を上手く詩歌は使っていると思う。
乃輝亜に対しての最初の対応(うそつきの声と言いながらもわるいことしたくてうそついてる感じじゃないとか言う所とか)とかもそうだけど、引きこもりだったし語彙の所の表現の仕方は不足感は否めないにしても、正しい分析をしていたりするし。
この巻で、エリオとのバトルみたいな所で、自分で受けて立ったり、主人公の楽斗からすれば驚くような能動的行動をしていたりもするわけだけど、詩歌は確かに天才なんだろうけど、最終的に詩歌は何を考えているのか?という所に一巻で一つ着地点を作った感じも、読者側からの理解という部分で良いと思ったし、この一巻でどういう子なのかが分かるようになっていたように思う。
歌というものを文字でどう表現するか?
この作品の題材、はっきり言って文章だけで表現するのは難しい要素が多い。
演じるにしろ、歌うにしろ、音があるに越したことはないわけで。
その歌の表現をどうするのか。という所の文章での表現の仕方っていうのがすげえなあって思った。
音の暴風が、吹き荒れた。
独特の低音のイントロから始まり、一気に高い音まで引き上げられる。激しいギタードラムの音に合わせ、高低強弱を自在に使い分けた歌声が講堂内を蹂躙した。
聴いているだけで音の圧力に体が震え、軽運動をしているときのように汗が吹き出してしまう。
p260
こういう表現の仕方とかで、どういう感じの歌なのかっていうのを表現してくるのが非常に巧い。
まぁこれは毎度言ってる気がするけど、三河ごーすと先生はこういう所の表現とかが巧いんだよねえ…
人間臭いキャラたち
これもいもウザでも言った気がするけど、めちゃくちゃキャラクターが人間臭いんすよね。
主人公の楽斗はもう単純にクズ!みたいな所あるし。
秋葉は自分のことしか考えてない奴!みたいな所あるし。
今回詩歌を対立することになったエリオも、なんかこう事務所とかの関係が存在する上で努力して今があることを詩歌に否定されたと思ってブチギレて色々あったりして。単純にアホな所が最終的には出てきたりもするわけだけど、そりゃ努力してる事を否定されたと思ったら怒るよなとか、そうじゃなかったら謝るぞとか。
そういう所の思考の所、何を考えてこういう行動をしているのか?っていうのがわかりやすいから納得が出来るっていうのが、読んでいてストレスが少ない所だと思う。
乃輝亜とかも、女ヒューってしながらも、なんかこの学園の現実みたいな所も分かっている所が見え隠れしたり、こういう曲も作ってみてえ!って詩歌の曲を作ったりとか、そういう所が見えるのが良い。
色々と行動する所に関して、しっかりと理由が分かる、根拠があるっていうのが良い。
それは作品においての詩歌もそうだからね。
タイトルの付け方が相変わらず上手
もうこれは相変わらずという言い方でいいと思うけど、タイトルの付け方が上手んすよね。
『顔さえよければいい教室』ってめちゃくちゃインパクトあるけど、オイコラとも言いたくなるタイトルじゃないですか。
作品においても、やっぱり顔大事っていうのは序盤から出てくる。外見大事と。
それこそ詩歌にメイクして数字が上がった、というのもあったし。
でも、この『顔さえよければいい』というのは、単純な『顔』を指すものではなく、『個』としての『キャラクター』という部分、芸能系に出る場合のキャラ性みたいな所とか、色々な所を指しているのが、この一巻だけでも分かる。
俺は、確信した。
VSINGER"シーカー”という存在を詩歌とともに世に送り出し、曲がりなりにも大勢に見られることを意識した人間だから確信できた。
渋谷エリオは、顔さえよければいいと信じている。
文字どおりの意味なんかじゃない。 渋谷エリオは、渋谷エリオというキャラクターを完璧に演じていて。
渋谷エリオという"顔"を、大切にしているってことだ。
看板、と言い換えてもいいかもしれない。
緊張――しているだろう。彼女にとっては大事なものを懸けた勝負なのだから。
浮ついた気持ち――あるだろう。自分が目指す世界で一流の結果を残した先輩を尊敬し、憧れを抱くのは当然の感情なのだから。
不安――まみれているだろう。どんなトラブルが発生するかわからないステージ、自分が積み上げてきたモノが理不尽に崩れ去る可能性はゼロではないのだから。
それらの感情はたしかに彼女の中にあるはずだ。
そして、彼女は、そんな感情があってもいいとさえ思っている。
顔さえよければいい――創りあげた渋谷エリオという存在が保たれたまま、歌を聴いてもらえればそれでいい。
究極まで突き詰めた割り切りと、キャラクターへの愛着があるからこそ、あの圧倒的な存在感を放てるのだ。p258-259
審査員の面々も、生徒たちも、誰もが詩歌の展開する世界に魅入られていた。
最初は侮っていた詩歌の、気の抜けた、華のない姿でさえ芸術を構成する要素のひとつにしか見えなくなっているはずだ。
それはそうだろう、池袋詩歌という生命から搾られた成分だけで創られた、 池袋詩歌を表現する曲なのだから。
ありのまま、そのままの詩歌の姿こそが、この曲にふさわしい"顔”なんだ。
渋谷エリオが魅せたような強引に振り回すようなパワーは、詩歌の歌にはない。
だが、 心象風景を描き換える詩歌の歌は、誰もが曲に込められた物語を己の記憶と錯覚する。
人が最も心を動かされるのは、自分自身と重ね合わせた物語だ。
どんな美しい音楽も、どんな見事な絵画も。己の心と一本の糸で繋がっていない作品は、 どこか上の空で鑑賞することになる。
歴史的価値が高く評価されている古典芸術でさえ、 その分野の歴史や文脈を知らない一般人からすれば「ヘー、綺麗ですね」と適当な感想を 投げておしまいだ。1秒後には「で、メシどうする?」とべつの会話をしている。
だからこそ常に時代に寄り添った作品が、その時代の人々に評価されるのだ。ゆえに、詩歌の歌は。
感動を呼び起こす。ハッと意識を取り戻したとき、気づけば俺は拍手をしていた。周りの人間と同じように。
万雷の拍手の音。詩歌には、この講堂にどんな色が満ちて視えているんだろうか。p268-269
強烈な作られたキャラクター性のエリオというのは、ある意味で現代における芸能においての形という言い方も出来るかもしれない。
その上で、ありのままというのを詩歌で提示してくる。
それはある意味で、何かしらの原因によって生まれたキャラクターによって様々なことが制限されていることを実感させられる表現とも言える。
『常に時代に寄り添った作品が、その時代の人々に評価される』というのが出てくるように、究極の自己表現がそのエリオの表現を打ち破っていくことで、「ありのまま」の良さを感じることが出来ると思う。
こういうタイトルに対しての関連付け方、印象のもたせ方というのがやっぱりお上手、やられますねえ。
この主人公、面白そうじゃん
最後に。
この楽斗という主人公、面白そうだねっていう。
そもそも、詩歌との関係性というのが良い。というかわかりやすい。
詩歌は介護が必要なヒロインであり、身の回りのことは楽斗がしているという言い方をして間違いない。
VSingerとしての段取りも基本的に楽斗が行っているようだし。
ただ、あくまでも詩歌の意思というのは尊重しているというか、詩歌の意思がなければ動かないというか詩歌が嫌ならやらないっていうのがはっきりしているのも、結構筋が通っているというか。
あと、詩歌は天才、主役は詩歌、というのを押し出してきているのも、なんかこう主人公は楽斗でしょ?って作品の中で思わせるのが上手いというか。
詩歌は天才だから、俺には何を考えているのかは分からない、どう視えているのかは分からないって言うのもなんかこう、割り切りが見えるというか。分からないけど信用してるし、そういうものを理解している感じが節々から感じられる。
その上での信頼関係がある所も良いなと思うというか、役割がしっかりと割り振りされてて、お互いを信頼して動いているんだなというのも伝わってくるし。
まぁこの主人公どう考えても只者じゃないので、完全にボコボコにしてるし。そこまでやるか?ってくらいやりまくってるし、そもそも交渉とかも上手いし。クズだけどw
この主人公は面白いなって。過去含めてどういうのがまだ出てきてないのか。楽しみにできるところかなと。
〆
こう、芸能のラノベっていうのは別に多くはないわけだけど、相変わらず面白そうなの書くなって感じですね…
構成の仕方とか、盛り上がりの作り方とかも非常に良い感じだし。
こう既存芸能に立ち向かっていく雰囲気もあったりして、その上でまだ良くわからない部分というか、出てきていない部分みたいなのも存在するし。
それこそ神田依桜とか、ちょい見せしただけだしね。
これは面白そうなのまた書いたなあ~って感じ。気合が入っている作品だけど、それにふさわしい所は出ていると思う。
詩歌にしろ、楽斗にしろまだまだ掘ったら面白そうだし。
今後の展開も楽しみですね。
…やっぱり表紙裏に『KADOKAWA』って書いてる富士見ファンタジア文庫違和感あるな(何年前に変わったと思ってるねん、デート・ア・ライブでも見てるだろ散々)
以上。